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長崎地方裁判所 昭和59年(わ)67号 判決

本籍

長崎市十人町一二六番地

住居

同市上野町二三番七号

貸金業

松島昇

大正九年一月二七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宮澤俊夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金六万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、長崎市栄町一番二〇号において、松島商会の名称で貸金業を営んでいるものであるが、多額の所得金額があることを了知しながらこれが全額課税対象となることを回避するため貸付金利息収入を仮名の銀行普通預金或いは定期預金に預け入れるなどの方法により所得を秘匿したうえ所得金額及びこれに相応する所得税額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出して所得税を免れようと企て、

第一  昭和五五年分の総所得金額が七九三一万四五九八円でこれに対する所得税額が四三四九万九三〇〇円であったにもかかわらず、昭和五六年三月一六日、長崎市魚の町六番一六号長崎税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が四七二万八四九〇円でこれに対する所得税額が四七万八三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の所得税四三〇二万一〇〇〇円を免れ、

第二  昭和五六年分の総所得金額が七九四七万五三一九円でこれに対する所得税額が四三七五万七〇〇〇円であったにもかかわらず、昭和五七年三月一五日、前記長崎税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が四三五万六五〇〇円でこれに対する所得税額が三九万七八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の所得税四三三五万九二〇〇円を免れ、

第三  昭和五七年分の総所得金額が六八五九万六六八九円でこれに対する所得税額が三六一八万七八〇〇円であったにもかかわらず、昭和五八年三月一五日、前記長崎税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が四五九万七〇〇〇円でこれに対する所得税額が四五万八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の所得税三五七三万七〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一、被告人の

1. 当公判廷における供述

2. 検察官に対する供述調書三通(乙27乃至29)

3. 大蔵事務官に対する質問てん末書二六通(乙1乃至26)

一、小西博(甲1)、松島公彦(甲2)及び松島久美子(甲102)の検察官に対する各供述調書

一、曽里田征男(七通、甲91乃至97)、福井哲男(甲105)及び嶋田正義(甲124)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、大蔵事務官作成の昭和五八年一〇月一九日付(二通、甲98・99)、同月二〇日付(甲100)、同月一八日付(甲101)、同年九月二一日付(甲103)、同年一〇月一五日付(甲104)、同年九月一六日付(甲106)、同月二二日付(甲121)及び同年一一月二二日付(甲128)各査察官調査書

一、被告人の同年一〇月二〇日付(甲108)、同月一八日付(甲110)、同年一二月六日付(甲111)、同年一〇月一九日付(甲114)、同年一一月九日付(甲115)、同年一一月三〇日付(甲116)、同月一一日付(甲118)、同月七日付(甲122)、同年九月二八日付(甲125)、同年一〇月二〇日付(甲126)、同月一九日付(甲127)、同月一八日付(甲129)、同年一一月三〇日付(甲134)、同月二九日付(甲135)、同月七日付(甲136)、同年一〇月二〇日付(甲137)及び同年一二月二日付(甲150)各上告書

一、被告人の各申述書(甲117、120、138)

一、大蔵事務官作成の同年八月一日付(甲132、133二通)及び同年一〇月一七日付(甲149)各査察官報告書

一、押収してある領収証一綴(昭和五九年押第二一号の五三)

判示第一及び第二の各事実につき

一、押収してある貸付金計算書控一冊(同号の四五)

判示第一の事実につき

一、被告人の同年一〇月一九日付(甲109)及び同年九月二六日付(甲119)各上申書

一、大蔵事務官作成の同年一〇月一八日付査察官報告書(甲142)及び脱税額計算書(甲151)

一、押収してある銀行勘定帳五冊(同号の一、二、五、八、九)、同日記一綴(同号の一四)、同差益金計算書一綴(同号の一七)、同計算書控六冊(同号の二〇乃至二五)、同貸付金計算書控三冊(同号の四二乃至四四)、同総勘定元帳一綴(同号の五六)、同振替伝票一綴(同号の五七)、同貸付金補助元帳(同号の五八)、同受取利息補助元帳一綴(同号の五九)、同昭和五五年度仕訳データー表一綴(同号の六〇)、同年度試算表一綴(同号の六一)及び同年分の所得税の確定申告書一枚(同号の七五)

判示第二の事実につき

一、大蔵事務官作成の同年一〇月一七日付査察官調査書(甲107)

一、被告人の同年九月二一日付(甲123)及び同年一二月六日付(甲141)各上申書

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲155)

一、押収してある銀行勘定帳三冊(同号の三、四、六)、同金銭出納帳二冊(同号の一〇、一一)、同日記一綴(同号の一五)、同差益金計算書一綴(同号の一八)、同計算書控九冊(同号の二六乃至三四)、同貸付金計算書控一冊(同号の四六)、同計算書控一綴(同号の五四)、同総勘定元帳一綴(同号の六二)、同振替伝票一綴(同号の六三)、同貸付金補助元帳一綴(同号の六四)、受取利息補助元帳一綴(同号の六五)、同昭和五六年度仕訳データ表一綴(同号の六六)、同年度試算表一綴(同号の六七)及び同年分の所得税の確定申告書一枚(同号の七六)

判示第二及び第三の各事実につき

一、被告人の同年一〇月一七日付上申書(甲113)

一、押収してある計算書控一冊(同号の三五)及び同貸付金計算書控一冊(同号の四七)

判示第三の事実につき

一、川添福一作成の上申書(甲112)

一、被告人の同年一二月二日付上申書(甲140)

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲156)

一、押収してある銀行勘定帳一冊(同号の七)、同金銭出納帳二冊(同号の一二、一三)、同日記(同号の一六)、同差益金計算書一綴(同号の一九)、同計算書控六冊(同号の三六乃至四一)、同貸付金計算書一綴(同号の五五)、同総勘定元帳一綴(同号の六八)、同振替伝票(同号の六九)、同貸付金補助元帳一綴(同号の七〇)、同受取利息補助元帳一綴(同号の七一)、同昭和五七年度仕訳データ表一綴(同号の七二)、同年度試算表一綴(同号の七三)、同銀行勘定帳一冊(同号の七四)及び同年分の所得税の確定申告書一枚(同号の七七)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は昭和五六年法律五四号「脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律」付則五条により同法による改正前の所得税法二三八条一項に、判示第二及び第三の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に各該当するが、いずれも所定の懲役と罰金を併科し、かつ各罪につきその免れた所得税の額がいずれも五〇〇万円をこえるので情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲約一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金六万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、手広く貸金業を営む被告人が、判示のとおり、仮名預金等により収入を隠し、いわゆるつまみ申告することにより多額の所得税を免れた事犯で、ほ脱した税額も三年間で合計一億二二一一万七二〇〇円と極めて多額で、ほ脱率も平的九八・九パーセントと高率でその刑責は重いと言わねばならない。しかも被告人は本件が国税当局から摘発される数年前より同様の手段をもって多額の所得税を免れていたことも窺えること、右のほ脱した動機もつまるところ自己の収益の拡大のために尽きるもので格別斟酌すべきものではないこと、本件での強制調査に際しては自宅に施錠をしてあくまで国税査察官の立入りを阻止する等して右調査の妨害、はては帳簿類を物置内に隠匿する等しており、犯情は悪く、現在、ことに正直に納税している国民各層の中に税に対する不公平感があり、右の不公平な税負担の是正には本件のような大口の脱税事犯に対する厳正な処罰が期待されていることを勘案すると今回被告人に対しては懲役刑についても実刑に処するのが相当であると考えられるが、しかし、被告人は本件後ようやく事の重大性に気づき、本件公訴事実を認めて特に争わず、また、修正申告に応じ現在までに本税を完納すると共に引続き重加算税等も納付する旨誓っている等して反省の情く認められること、本件による罰金額及び重加算税等の租税行政上による被告人に対する制裁効果も大きいこと、今後は現在の貸金業を縮少する予定で再犯のおそれも減少していること、被告人には恐喝等による前科四犯があるが、それらはいずれも一五年以上も前の古いものであること、とりわけ被告人は現在六四才と年齢も高く四人の家族を養う一家の支柱であること等被告人のために酌むべき情状も認められるので、そこで以上の諸情状及び同種事犯の量刑の趨勢をも考慮して主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊五十雄)

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